受験にも知育にも興味ない 東大卒ママの育児日記

受験にも知育にも興味ないズボラな東大卒の二児の母が、おすすめの育児書や絵本を紹介したり、教育についての思いをつらつらと語ります

【おすすめ絵本】 『たいようオルガン』

 

 

溢れる色彩と音楽で、子供の感性や表現力を刺激してくれそうな絵本。

《概要》

太陽がオルガン弾いて朝が来た。ゾウバスくんが朝日の中を出発して、旅をします。畑の丘を越え、街を越え、橋を渡ったり、海を渡ったりしながら、みんなゾウバスに乗ったり降りたり。途中雨が降ってきたり、夕焼けを見たりしながら、ゾウバスの旅は夜まで続きます。

《おすすめタイプ》

男の子でも女の子でも。3歳くらいから、とありますが、1、2歳の子が絵を眺めるだけでも楽しめると思います。

《おすすめポイント》

これも比較的新しい絵本です。作者の荒井良二さんは、山形県出身で日大芸術学部を卒業後、絵本を描き始め、『なぞなぞのたび』でボローニャ国際児童図書展特別賞を受賞、スウェーデンの児童文学賞の他、日本絵本賞、小学館児童出版文化賞など数々の賞を受賞。本書でも日本国際図書評議会(JBBY)賞を受賞しています。

とにかく隅々まで絵を楽しみたい絵本です。ゾウバスが、野原を、砂漠を、街の中を、橋の上を、海を、走る走る。1日の日差しの移ろい、天気の移り変わり、雨の香りや空の色まで五感で感じるように楽しめます。作者の荒井良二さん音楽活動を行っていることも有名ですが、この「たいようオルガン」を元にした合唱曲まであるようです。(Youtubeで視聴できます。こちら)ちょっと、クラシックだと重厚過ぎるというか、もっと軽快で明るいイメージな方が合うような気もしますが、この絵本が音楽を感じさせる、というのはよく分かる気がしますね。ゾウバスとかたいようオルガンといった自由な発想、ふんだんに使われた色彩、手書きの文字、子供の心そのままを表現したような世界で、文字や文章が分からない子供でもスッと入っていけます。

幼児が描いたような朴訥な絵なんだけれど、細部までこだわりがあって、夕焼け、海、雨の灰色、夜、など色彩のトーンが本当に豊かなので、色々な楽しみ方がで切るのも良いところ。ユニークな動物を面白がる子もいれば、砂漠や南国を思わせる風物に興味を覚える子もいるのではないでしょうか。ちなみに、うちの子供は、たこやいかや昆布まで出てくる海辺の道のシーンと、夕焼けのバザールようなシーンの2つがお気に入りです。私が好きなのは、中盤で雨が降ってくるシーン。ぜひ、何度も読んで、あ、こんなのもいる、あんなのもある、と新しい発見をしながら、お気に入りのシーンを探してみてください。

【おすすめ絵本】 『どうぞのいす』 

どうぞのいす』

作:香山 美子 絵:柿本 幸造 出版社:ひさかたチャイルド

 

 

 

小さい子でもストーリーを楽しめる、読み聞かせ初期に最適の本。可愛くて温かい色調の絵も素敵です。

《概要》

うさぎさんが小さないすを作りました。小さなしっぽをつけたいすのそばには立て札が一つ。「どうぞのいす」。そこへ、ろばさん、くまさん、きつねさん、りすさんが順番にやってきて、、、あれれ、みんなが「どうぞ」の気持ちを忘れずにいたおかげで、最後は、ろばさんのどんぐりが、いつの間にかくりに変わっていましたよ。

《おすすめタイプ》

1、2歳から。動物好きな子にもおすすめ

《おすすめポイント》

日本で100万部を超えたベストセラー、『ぐりとぐら』や『からすのパン屋さん』に並ぶ定番中の定番絵本です。

日本の出版社はひさかたチャイルドですが、うちで所蔵しているのはタイの出版社のもの。日本語とタイ語が併記されています。タイのバンコクでは、紀伊國屋で日本製絵本をたくさん購入できますが、タイ製で日本語も併記されている絵本というのは中々貴重です。この絵本も、紀伊國屋ではなく、なんと日系のスーパーで買いました。『どうぞのいす』が、いかに普及しているかが分かります。

『しゅっぱつ、しんこう』の記事でも書きましたが、柿本幸造さんの描く動物はとっても可愛くて、色調にも質感にも柔らかさと温かみがあって大好き。うさぎさんも可愛いですが、お目目くりくりのロバさんや賑やかなりすさん達も愛嬌たっぷりです。うさぎさんのいすには小さなしっぽがついていたり、初めから終わりまで密かにおこぼれを頂戴している食いしん坊の小鳥さんがいたり、細部まで楽しめるのも良いところです。

そして、前回の 『しんせつなともだち』でも書きましたが、この絵本も「くりかえし」のパターンが生きています。ろばさんはどんぐりを、くまさんははちみつを、きつねさんはパンを、りすさんはくりを持ってやってきて、「どうぞのいす」に置いてあるものを食べてから、自分のを置いていく。そのくりかえし。そして、最後の最後で、初めにろばさんが持ってきたどんぐりが、いつの間にかくりに変わってる?どんぐりってくりの赤ちゃんだったっけ?と、初めに戻る仕掛けになってきます。これも、2、3歳の子だと、「初めにろばさんがどんぐりを持ってやってきた」ということ自体を忘れてしまっていたりするので、ストーリーを追って体験する、良いトレーニングになると思います。

もちろん、みんなが「えんりょなくいただきましょう」と言った後で、ちゃんと次の人のために「どうぞの気持ち」を忘れずにいてあげる、その礼儀正しさと温かい気持ちも素敵です。そういう、お話自体が「素敵な気持ちリレー」で進行していくところも『しんせつなともだち』と似ていますね。

あと、どんぐりっていうのも個人的に好きです。どんぐりって、小さい子供は異常に好きじゃありませんか?私なんて、大人になっても好きなので、今でも見つけると意味なく拾ってしまいます。どんぐり。もう、これだけで子供のとっかかり十分なのではないでしょうか。『ぐりとぐら』の最初も、どんぐりとくり拾いから始まりますよね。「どんぐり」「パン」「ホットケーキ」「かぼちゃ」あたりは、日本の絵本の最高パワーワードですね。いつか、このテーマでの絵本紹介記事を書きたいなあ、と密かに思っています(笑)

 

【おすすめ絵本】『しんせつなともだち』

しんせつなともだち』

作:ファン・イーチュン 絵:村山 知義

訳:君島 久子 出版社:福音館書店

 

 

冬の寒さと厳しさを感じながらも、心がほっこりと温まる絵本。「繰り返し」を通じて、小さな子供にストーリーを体感させるのにぴったりです。

《概要》

外は一面の雪でとても寒い。こうさぎは食べ物を探しに出かけて、かぶを2つも見つけました。1つは食べて、1つはお友達のろばさんに持っていこう。でも、ろばさんは食べ物を探しに出かけているので留守でした。こうさぎがそっと置いていったかぶを見つけたろばさんは、やっぱりお友達にあげよう、と思いついて、、、みんなが食べ物を分け合う優しさを持っていて、最後はなんと、こうさぎにかぶが戻ってきたのでした。

《おすすめタイプ》

読み聞かせるなら2、3歳から。動物好きな子にも。

《おすすめポイント》

これも昔からある定番で、日本図書館協会の認定も受けている絵本です。中国の作家、ファン・イーチュンさんの童話を元に、日本人の村山知義さんが絵を描いています。動物がたくさん出てきますが、『ちいさなねこ』みたいに、結構リアルなところが、動物好きにはウケると思います。現代の絵本みたいに、動物たちがキャラクター化されて表情豊かだったり、お家の中がカラフルな物に溢れていたり、というのとは全然違う。動物達は無表情だし、彼らのお家の中ははっきり言って、かなり粗末で殺風景です。でも、それがまた、現代には無い、何もない冬の厳しさを感じさせます。そういう、ある意味殺風景な感じの絵から、動物達がそれぞれみんな、お友達のことを思いやって、一つのかぶを運んでいく、というエピソードの温かさが際立ってくるんです。

ろばさんがさつまいもを、こやぎがはくさいを、こじかが青菜を見つけて、それぞれ自分の家に帰ってくると、かぶが置いてある。こういう同じパターンの繰り返しって、絵本にはよく出てきますよね。読んでる大人からすると、若干まどろっこしかったりするんですが(私です笑)。この絵本を読んでいて、小さい子供に物語を理解させるには、こういう<繰り返し>ってすごく大事なんだなあ、と気付かされました。

大人からすると単純過ぎるくらいのこの絵本のストーリーなんですが、小さい子供にとっては、実は結構難しい。試しに、2、3歳の子供に読んであげてみてください。一度目だと、最後の最後でこうさぎのところに戻ってきたかぶは、最初にこうさぎが取ってきたかぶなんだよ!ってことが、すぐに理解できないのではないでしょうか。小さい子供は、瞬間瞬間、目の前の出来事に反応して生きてますから、たった数ページでも、絵本の初めと終わりが繋がる、というストーリー性を理解するのが意外と難しい。だからこそ、こういう<繰り返し>に意味があるんだと思います。

今の子供向けのアニメ映画なんかを見ると、ものすごく展開が早くて、びっくりしてしまいます。小さな子供を飽きさせないように、という工夫なのは分かりますが、ディズニー映画なんかも、こんなスピード感で本当に子供は理解できるのかしら?と思ってしまいます。

ネットのおかげで、情報化・スピード化が進み、エンターテイメントも、どんどん細切れの、集中力を伴わない類のものに変わっていくなあ、と思います。そういう「今」に生きるセンスも大事だと思うのですが、子供はあっという間に新しいものには慣れて身につけてしまいます。だからこそ、小さい頃は、こんな昔ながらのゆったりした<繰り返し>を楽しむ経験もさせてあげたいなあ、と思うのです。<繰り返し>を通じて物語を頭で理解するのではなく、体感していくようなゆとりある時間。お母さんやお父さんと一緒に絵本を楽しむ大切な時間の意味じゃないかな、と思います。

 

【おすすめ絵本】『りんごかもしれない』

りんごかもしれない』

作:ヨシタケシンスケ 出版社:ブロンズ新社

 

 

 

子供が食いつく、新しいナンセンス絵本の決定版。でも、本当はナンセンスだけじゃない深さがあります。

《概要》

テーブルの上に置いてある一つのリンゴ。見た目は普通のリンゴ。でも、もしかしたら、ただのリンゴじゃないのかもしれない。大きなサクランボの一部とか?実は何かのタマゴとか?いやいや、表面に小さな宇宙人が住んでいるのかも?もし、このリンゴに気持ちがあったら、、、想像はどんどん膨らんで、そんなのあり得ない!?というところまで世界が広がっていきます。

《おすすめタイプ》

4、5歳ぐらいから。自分で字が読めるようになると、さらに楽しめます。男の子は大好物だと思いますが、女の子にも、是非読んでほしい。

《おすすめポイント》

ヨシタケシンスケさんは、筑波大学大学院の芸術研究科を卒業し、スケッチや広告美術などで活躍されてきましたが、初めて出版した本書が大ヒットし、今では大人気の絵本作家さんになりましたね。

私も比較的最近知ったのですが、他の絵本も面白い。でも、やっぱりこのデビュー作に、ヨシタケシンスケさんの絵本の面白さが凝縮されているな、と思います。テーブルに置かれた一個のりんごから、想像、というより妄想、に近いような世界が広がっていきます。

それが、ちょっと普通の大人で考えつかないようなイマジネーションだし、全く教条的でない、というか、かなりくだらなくてナンセンスなところが、子供にはバカウケ。絵もユーモラスで面白いし、結構シュールな笑いも隠されていて、読みながら大人も笑ってしまいます。

私的には、『キャベツくん』の長新太に次ぐ、ナンセンス絵本の新王者現る!と密かに思っています。

大人も読めるナンセンス絵本の面白さは、くだらないだけじゃなくて、どこか皮肉とか現実世界への批判的な要素が隠されているところ。この『りんごかもしれない』で言えば、「一見、普通のりんごにしか見えないものも、本当はそうじゃない可能性があるよ!」ってことですよね。誰もが当たり前だと思うこと、見えてるだけだと普通に見えること、もしかしたらその陰に、とんでもない秘密が、可能性があるのかもしれない。だから、子供が楽しんだ後に、これも本当にただの○○なのかな〜?なんて、想像して楽しむ「広がり」が生まれます。(全部それをやられたら親はたまったもんじゃないけどね)

物事は、今そこに見えてるだけの姿だとは限らない。ちょっと違う角度でものを見たり考えたりするだけで、世界の可能性は無限大に広がっていくのです。ネットやテレビで見かけた情報を鵜呑みにして、条件反射のごとく騒いだり右往左往しているような今の大人の方が、この絵本を本当に必要としているのかもしれませんね。自戒を込めつつ、、、

 

 

【教育本・教養本】 『学力の経済学』

 

 

教育書と経済書の中間的な位置付けとして話題になっており、参考になるかな、と思って読んでみた。読んだ感想としては、うーん、、、教育現場に携わる方や教育政策に興味がある人には良いと思うが、親が子育ての参考として読むにはどうなんでしょう、、、という感じ。

至極当たり前のことを言うと、「学力」というのは、子供の「生きる力」とは全く違う。そもそも「頭の良さ」とすらさほど関係がない。「経済力」にも直結しない。その前提で「学力」を伸ばしたい、と親が思うならそれはなぜなのか、きちんと整理できた上でこういう本を読まないと、とても危険な気がするのだ。しかし、自分も含めて、このあたりをきっちり整理して考えられる親というのは極めて少ないように思う。「学力」と「経済力」と「頭の良さ」は、全く関係がない、とまでは言えないし、だからこそ親としてはそれらが渾然一体として捉えられたまま、とりあえず目先の「学力」という指標に気を取られてしまう。

事実、この本も、前半は「学力」に限定して語っているのだが、途中から「非認知能力」に話が切り替わる。学力については、小学校高学年以上の子供を対象とした方が適切だと思うが、「非認知能力」については、幼少期から育むべきものだろう。そういう意味では、子供を教育する親からすると、子供の年代は非常に重要だと思うのだが、その辺りはランダムに語られている。

例えば、この本が打ち破る「教育神話」の一つとして、「褒めて育てる」のが本当に良いか、という問題がある。著者は、フロリダ州立大学のバウマイスター教授やバージニア連邦大学のフォーサイス教授らの研究結果を例に挙げ、《学生の自尊心を高めるような介入は、学生たちの成績を決してよくすることはない》ので《むやみやたらに子どもをほめると、実力が伴わないナルシストを育てることになりかねません》と主張している。

しかし、この試験で対象となっているのは、高校生や大学生でなのである。そもそも「親が褒める」ことが、自尊心を高めることに大きな影響を及ぼす年頃とは思えない。一般的な親が「褒めて育てる」効果を期待するような歳ではないので、なんとなく想定しているケースがずれている感が拭えないのだが、こういう子育てする親の想定とは微妙にズレた「データ検証」がこの本では多く出てくるのだ。

もう一つ、インパクトを与えやすい例として、「幼児教育は収益率が高い」というものがある。アメリカ・ミシガン州の「ペリー幼稚園プログラム」で、低所得のアフリカ系米国人の3〜4歳の子供たちを対象とした実験結果が挙げられている。

このような実験結果は、社会政策を考える上ではとても重要で意義があると思うが、例えば、この本を読んでいるような比較的教育熱心な日本の一親が「なるほど!」と手を打ちたくなるような検証結果ではないように思う。当たり前だが、3〜4歳児への教育とは「学力」アップの教育ではない。そのことは、著者もさすがに認めている。だとすると、「幼児教育」とは何を指すのか。幼児期に高めるべき「非認知能力」のスコープはあまりに広い。コミュニケーション力、安定した精神力や集中力、自制心や創造性、それら全部を高める「幼児教育」の具体的イメージを持てる親がどれだけいるだろうか。そしてまた、高校失業率や40歳時点での所得やIQが平均より高い、ということが、現在の日本にいる親として目指す収益率なのか、ということも自問する必要がある。

この本のあとがきで、講演会に来ていた小さな子供連れのお母さんから「話が聞けて良かった。知らなかったらヤバかったわ」と声をかけられたエピソードが紹介されていたが、そのお母さんはちゃんとこういうことを自分の中で整理した上で理解できていたのだろうか。もしそうでなくて、いろんなものが渾然一体となったまま、この本で挙げられている実験結果を鵜呑みにしていたとしたら、その方がよっぽど「ヤバかった」気がするのだが、、、余計なお世話だが、「やっぱり幼児教育にお金をかけるのが一番良いのね!」と、よく分からない習い事漬けの毎日で親子共々疲労困憊したり、無理して有名私立幼稚園をお受験して、家計に過大な負担をかけたり、頓珍漢な結果になっていないよう願うばかりである。

 

現代の「学力」が、最終学歴に到達するための力とするならば、それは限定的なステータスと大企業に良い条件で就職するための指標でしかない。「頭の良さ」は全く関係無いとは言わないが、「暗記力」と「情報処理能力」と「ルール認知能力」が勝負なので、効率的に且つ時間をかけて習得すれば、殆どの人が一流大学に合格できるだろう。特に、繰り返し時間をかければ受験で点を稼ぐ力は確実にアップする。ただ、多くの人は、そこまで時間をかけたくもないし、かけるモチベーションが続かないだけだ。家庭も含め、周囲の環境によって勉強に時間をかけるのが当たり前で、且つ、中高一貫校のように、効率的に受験勉強に時間を費やせば(高校入学から1年生の前半までに、高校3年生までのカリキュラムを終えて、残りの2〜3年間は大学受験のスキアップに集中する、というような)、誇張でもなんでもなく、並の頭の良さの人なら東大に合格できる。

そういう前提を踏まえた上で、親が子供に学力を身に付けさせたいのなら、なぜそう思うのか、もっとしっかり自分の中で整理した方がいい。将来の経済力の為に、というのは一つの分かりやすい答えだが、その場合は、「学力」=「経済力」ではなく「経済力の一助」にしか過ぎないこともはっきり認識しておく必要がある。この本でも言っている通り、

「高校を卒業後すぐに働き始めた人と、大学を卒業してから働き始めた人の間では、生涯で稼げるお金に、実に一億円の差があります。一億円を年末ジャンボ宝くじで当てようとすれば、その確率は1000万分の1です。交通事故で亡くなる確率が一万分の1、飛行機で事故にあう確率が20万分の1といわれている中、これは、ほとんど不可能といってよいレベルでしょう。しかし、宝くじで1億円が当たることを夢見なくても、大学へ行けば生涯で稼げるお金は1億円高くなるのですよ。」

 

確率論で言えば、まず学力を上げて出来るだけ良い大学に行く、というのが経済力アップの為の最も着実で一般的な方法、ということになろう。しかし、これもまたあくまで一般的な確率の話なので、高卒や中卒でその一億差を埋める収入を得ている確率は、宝くじの当選確率とは比較にならないくらい高いであろうし、そもそも、その一億の収入差で子供の将来は安泰なのか、大卒の中でも収入にはかなり差があるのではないか、だとしたらどのレベルの大学や企業に入ることを目標とすれば良いのか、また、今のこのデータ上の収入差は子供が成人するまで続いていくのか、などと疑問が次々沸いてくる。

もちろん、根本的なところで、経済力のみがその子供の幸不幸を左右するわけではないし、生きるのに必要な力は別のところにもある、という問題もある。言うまでもなく、子供が「経済力さえつけてくれれば不幸になっても構わない」とか、「いい大学に合格してくれさえすれば、その後自殺しても病気になっても構わない」とか思っている親はいないわけで(多分)、学力は経済力の一助にしかならないと同時に、経済力もまた幸福になる為の一助にしかならない。そうやって考えていくと、子供の教育における学力のポーションをどの程度におくべきなのか、悩ましいところである。こういうことを全て踏まえて自分の中できちんとした答えがある親が、果たしてどれだけいるだろうか。

 

 

 

【おすすめ絵本】 『すてきな三にんぐみ』

すてきな三にんぐみ

作:トミー・アンゲラー 訳:いまえ よしとも 出版社:偕成社

 

 

 

コントラストの美しさが際立つ印象的な絵。ちょっと怖いけど素敵な3人組に、考えさせられるお話です。

《概要》

黒いマントに黒い帽子の3人組は、こわーい泥棒。夜な夜な強盗をしています。ある晩、いつものように馬車に押し入ると、そこには孤児の女の子が一人。3人組は女の子を大事に抱えて隠れ家に戻り、女の子に言われて、奪った宝でお城を買い、国中の孤児を集めることに、、、

《おすすめタイプ》

4、5歳くらいから。全文ひらがなですので、文字を覚え始めた子供の読みはじめにも良いです。

《おすすめポイント》

定番中の定番ですが、とってもお気に入りの絵本です。フランス人絵本作家トミー・アンゲラーの代表作。

絵本のもつ「絵の力」を感じさせてくれる本です。イラストレーターとしても有名なアンゲラー、濃い青の背景の中に、黒の泥棒の影が浮かぶ全体像の中に、黄色の月や、朱色のマサカリのコントラストが見事。三にんの泥棒の山高ぼうや、それに似せた建物の屋根など、フォルムの面白さも楽しめます。三にんのどろぼうは、目しか見えないのでその表情や感情は殆ど読み取れないのだけれど、孤児のティファニーちゃんを運ぶその時だけは、すごく大事に慈しむように抱えているのが伝わってきて、表現力がすごいなあ、と感心します。

絵の素晴らしさに目がいきがちですが、お話の内容がちょっと考えさせられるのもこの絵本の良いところ。三にんのどろぼうは、前半は凶悪な強盗犯に見えるのに、ティファニーちゃんを連れて帰ってからは一転、国中の可哀想な孤児を引き取って育ててあげます。その資金源になったのは、今まで人から奪ってきたお宝、、、これっていいこと?悪いこと?すてきな三にんぐみって、そもそもいい人なの?悪い人なの?少し大きくなった子どもならそういうかもしれません。

この答えはほんと難しい〜ですね。お父さんもお母さんも、答えられないかもしれません。でも、子どもにとって、その「わりきれなさ」も時には大切かな、と思います。強盗犯が盗んだお金で慈善事業をする、とか、それをいいことに国中から孤児が集まってくる、とか、この辺りはフランス人らしいシニカルさというか、社会批判的な視点も盛り込まれているなあ、と思います。確かに、泥棒はいけないことなのだけど、国中の見捨てられた孤児というもう一つの「社会悪」は、一体どうするべきなのか、、、今の日本だって「赤ちゃんポスト」というのがあるのよ、なんて話もしてみたり。

デザインのセンスだけでなく、「この世界は一筋縄ではいかないのかも」というちょっと複雑な感情も刺激される。「とっかかり」と「広がり」のバランスが素晴らしい名作だと思います。

【おすすめ絵本】 『フランクリンの空とぶ本やさん』

フランクリンの空とぶ本やさん』

文:ジェン・キャンベル 絵:ケイティ・ハーネット 

訳:横山 和江  出版社:BL出版

 

 

 

読めばきっとみんな本が大好きになる。懐かしさと新しさの混じった現代の名作絵本。

《概要》

ドラゴンのフランクリンは本が大好き。本を読んであげるのが大好きなので、町の人にも読んでもらいたい、と思っていますが、大人たちはドラゴンの姿を怖がって逃げてしまいます。ところがある日、一人の女の子が現れて友達になり、一緒に町の広場へ。最初は怖がっていた大人たちも、女の子に説得されて、いつしかみんなフランクリンの背中に乗っていました。

《おすすめタイプ》

読んであげるなら4、5歳から。小学生低学年でも楽しめます。動物好き、ドラゴン好き、本好きの子。男の子女の子どちらもおすすめ。

《おすすめポイント》

2018年初版という新しい絵本です。ある日、上の娘が「これ、きっとママが好きだと思って借りてきた」と、小学校の図書室から借りてきてくれました。もうその通り、ビンゴ!です。たちまちフランクリンの魅力の虜になり、ネットで買い求めてしまいました。子どもが一緒に絵本を読んでいるうちに、母親の趣味が分かってきたのもなんだか嬉しい。

とにかく絵が素敵。イラストレーターのケイティ・ハーネットは、ボローニャ国際絵本原画展で何度も入選しています。淡い色調、可愛らしい動物やドラゴン、家の中や町の様子も細やかに描かれています。伝統的な絵画風のタッチと、現代アート風のデザインが見事にミックスされています。

お話の中身も、ドラゴンやアーサー王物語やバイキングが出てきたと思ったら、電動ミキサーのお菓子の作り方やカモミールティーやクレームブリュレも登場。古き良きものと新しい今風のものとが絶妙にマッチしています。ドラゴンに乗る、というのは昔からお伽話にもよく出てくるパターンですが、そこにソファと本棚を据えて本屋さんにしてしまう、と言うのがまた斬新。ネズミたちが楽しい音楽を演奏し、女の子のルナがケーキを配って、なんだか今流行りの素敵なブックカフェ風な演出が楽しい。物語ばかりではなくて、実用書や漫画までカバーしているところも、今風のブックカフェを連想させます。

ドラゴンのフランクリンは、『エルマーのぼうけん』のボリスに匹敵する、絵本界きっての魅力的なドラゴンだと思います。(ボリスも可愛いけどね)本が好きな人なら誰でも、フランクリンのお話を聞きたい、そして、フランクリンの背中で本を読みたい!という気持ちになるはず。正直、子どもが気に入っても気に入らなくても、自己満足の為に持っておきたいくらい大好きな本です(笑)でも、子どものお気に入り、だけでなく、ママのお気に入り、もあってもいいと思いませんか?ママが心から絵本を読むのを楽しみにしていたら、子どももきっとママと一緒に絵本を読む時間がさらに大好きになると思いますよ。